2020年3月の読了
「熱源」の人物たちに今でも自己投影してしまう。
3月のベストは文句なしにこれです。
- 詩的私的ジャック/森博嗣
- 中年クライシス/河合隼雄
- 熱源/川越宗一
- さざなみのよる/木皿泉
- 七つの海を照らす星/七河迦南
- 崩壊の森/本城雅人
- しらふで生きる/町田康
- 世界地図の下書き/朝井リョウ
- 首都感染/高嶋哲夫
- 秋本治の仕事術/秋本治
詩的私的ジャック/森博嗣
謎解きに非ず、犀川先生の思考のプロセスと、萌絵との謎かけ、言葉のゲームがシリーズの醍醐味か。そう納得すると、2周目が楽しい本だと思う。それにしても、犯人の動機に納得出来てしまう私はサイコパスかもしれない。破ってしまえよ。壊してしまえよ。
中年クライシス/河合隼雄
昔の小説を臨場感たっぷりに語る。テーマは中年が遭遇する二律相反。成し遂げたかった夢にひとつの到達を見た後に思い浮かぶことはやはり同じようだ。まさに、落日と旭日がせめぎ合う。下手なビジネス書でまとめられるのとは納得感が違う。何か強くなった気がしてくる。
熱源/川越宗一
史実の人達がアイヌで結ばれているなんて…創作だと思ってた。気が付けば何処に向かうのか。どんな人の人生でも船が漂着するように流転していく。妻子を捨てて革命に身を委ねる。およそ、それが事実だとは信じ難い。だとすると、内に宿る熱が今より遥かに高かったのかもしれない。
さざなみのよる/木皿泉
死の間際、終末の刻、クライシスに読む本かも。死生観をテーマに、これからも生きていくことやどうありたいのか、一人の女性の死を通じて多面的に話を展開する。昨日のカレーの時は大感動だったのに、今読むと自分が死んだみたいに思えてしまう。
七つの海を照らす星/七河迦南
面白かった!滅びの指輪になぞらえ、濁っていく第二話がこびり付く。散らし方も、繋げ方も、読者の記憶を呼び覚ますエピソードも、為されるがままに導かれた感じ。惜しむらくは、下ごしらえとなるナレーション部に筆が乗り過ぎること。他の作品も読んでいきたい。
崩壊の森/本城雅人
ソ連崩壊時の産経特派員をモデルに当時の出来事を綴る。記者になることや外国に行くことの確固たる意思や、記者の仕事が全ての中心だったり、歴史の転換点を皆で撮った写真を大事にしていたり。早回しの日記で生涯の人生を一気に回してみて、物悲しく切なくなってしまった。
しらふで生きる/町田康
酒場でくだを巻いて哲学を語りながら酒の要不要論をグダグダと笑。こういう人は酒場に一人で長時間居ることがある。1冊分もエッセイを綴ることができる程、言葉は溢れてくるんだなあ。酒を飲んで幸福感を味わうなんてその目的意識こそ空虚なんです。酔うのが目的なんて。
世界地図の下書き/朝井リョウ
ーそう思っていないと負けそう。
希望が途切れそうなとき。圧倒的なひとりぼっちを悟ったとき。自分だけは変われると決別したとき。そこらの在り来りのエールではない。ハッとする言葉で紡がれる無けなしの決意に、出来るなら自分が手を差し伸べたくなる。
首都感染/高嶋哲夫
感無量だ。現在起きているコロナの状況を過去のものとして、来る強毒性インフルパンデミックを2010年時に描ききったクライシス小説。社会予測より何より、パニックを起こさず、自己を封じ込めることの絶対的な断言を強く訴えかけてくる。世界的に読まれて然るべき。
秋本治の仕事術/秋本治
漫画の両さんの破天荒さとは真逆な、どこまでもストイックな作者のハウツー。かなりの部分で自分と同じ匂いを感じる。自分の進捗を冷静に推し量る。気持ちの持ち方や時間管理の仕方は、取り立てて目新しいものでは無いけれど、とにかく両さんとのギャップが楽しめる。