2018年7月の読了 スーパー熱帯夜の日々を思い出す
7月のツイートを10月末の現在から振り返ると、暑かったんだな!大変だったんだな!と声をかけてやりたくなります。この日の暑さと、神々しさを生涯忘れないと思う。
この月のベストブックは「キネマの神様」です。
- ニコニコ共和国 小川糸
- キネマの神様 原田マハ
- 選択の科学 シーナ・アイエンガー
- 神去なあなあ夜話 三浦しをん
- 名前探しの放課後(上) 辻村深月
- 名前探しの放課後(下) 辻村深月
- 護られなかった者たちへ 中山七里
- 未来 湊かなえ
ニコニコ共和国 小川糸
振り返った時、歩いてきた道に何が見えますか?ーー前作から1年。みんなの生活が移り変わる。この話を読んでると今は亡き親戚の叔母さんの家を思い出す。親しいようでいて芯まで入れない。けれど形や手触りは我が身に感じたまま。今の物事を大切にしなきゃと思わせます。
キネマの神様 原田マハ
手紙や演説、想いを文章にするお話となれば原田マハの真骨頂。文章には温もりが、比喩には労りが、結びには希望が込められている。陰と陽に目を向ける対称的な二人の批評は登場人物たちの生き方を象徴している。まっすぐな言葉が起こす変革。気付けば頬が涙でベタベタ。
選択の科学 シーナ・アイエンガー
人間は選択を生み出す。理想の自分と不協和が生じれば自己すらも選択する。乱暴に言えば、自己とは選択を繰り返す動的ゆらぎである。でも人間は意外と選択に選択を誘導されてる。そんな研究対象である「選択」に神秘と美さえも見出だす。人間らしさこそ選択か。
神去なあなあ夜話 三浦しをん
こんな生き方もあるんだ。「食えて眠れて、また山へ仕事に行けるならそれで充分な気がしている」この一節が頭に残ってる。ライトな語り口。にくい展開やとぼけ具合。膝をパンパン打ちながら楽しい読書だった。しをん世界では、どんな生き方でも肯定したくなる。
名前探しの放課後(上) 辻村深月
3ヶ月前からのタイムリープで幕開け。飲み込めない状況から、徐々に仲間が増え、胸の内を晒け出していく。密度が濃い高校生の日々を大事にしたいのにぐいぐい読み進めてしまう。心の奥にある、軋むような何かが弾けるのを怖がる気持ちが、尚更速度を上げさせる。
名前探しの放課後(下) 辻村深月
2周目は別の話になる。即座に2周目を読み漁り、騙し絵の快感さに力が抜けていく。2周目も楽しい。それとは別に読み途中で頭を巡っていたのは、人は、学生の頃の一つ一つの思い出を、いつまで、どこまで、その想いまでを、持ち続けられるのか。少し…切なくなった。
護られなかった者たちへ 中山七里
生活保護を扱う刑事もの。現実を容赦なく、生々しく、1度は気分が悪くて読むのを辞めようかと思ったのに…なんだろう。主張が前面かもしれないけど、なんだろう。批判なんて出ない。一気に読ませて、別の作品もすぐ読みたくなる、底知れぬ作家さんですね。
未来 湊かなえ
装丁に負けないドス黒い境遇、出来事。救いなさの連鎖。別世界の話とは割り切れなくて、決壊して押し寄せてきそうになる悪魔の処遇たち。酷いことのオンパレードの何かは、ややもすると自分からも発露するのでは?それが怖くて必死で読み抜けた。でも、マドレーヌは焼きたくなる。
2018年6月の読了 読めない月
7冊!? 断酒してからこんなに少ない読書冊数は初めてです
仕事が切羽詰まったのと、ロードバイク通勤にしたからなんですよねーーー…
今月は騙し絵の牙が面白かったですね
事あるごとに話を思い出してしまうくらい心に刻まれたようです
- 福袋 朝井まかて
- 冷たい密室と博士たち 森博嗣
- たゆたえども沈まず 原田マハ
- この嘘がばれないうちに 川口俊和
- 騙し絵の牙 塩田武士
- サピエンス全史(上) ユヴァル・ノア・ハラリ
- 小説家の作り方 野崎まど
福袋 朝井まかて
落語と現代語が入り交じり、キリリ、スッキリした読後感で尾をひかない。なのに読書中はその人間臭さに自分の感情が湧いて、登場人物に対して無用なまでの好き嫌いを感じている。長編になるとどのくらい掘り下げてくるのか気になる。
冷たい密室と博士たち 森博嗣
素晴らしい!全く歯が立たなかった。綿密に構築された論理と、解き明かされる過程での誘導。裏の裏は表とは。そのフレーズだけでこの本を思い出すだろう。理系人間が論理回路を無限に弄り回し、なのに動機はどこか文系的に儚く。シリーズ何冊も続くとはまさに僥倖。
たゆたえども沈まず 原田マハ
ゴッホ兄弟の苦悩に生を与える。アートの背景を知らしめる点で好奇心が満たされる。ただ…この有名な素材をピュアに料理して、伝記止まりになっている点。サロメもそうだった。伝記創作には謎や転換要素が無い。お門違いかもしれないけど物足りない。楽園Lv欲しい
この嘘がばれないうちに 川口俊和
亡くなった人に逢いにいく4人。過去を変えるのではなく何かを伝えるために。自分が変わることに気づいた前作に対し、故人を幸せにすることに気付く今作。4人が気付く「故人を幸せにする方法」とは。相手のためにひた隠すその願いと答は、ほっとさせてくれる。
騙し絵の牙 塩田武士
大泉洋を当て書きに出版不況を現在進行で実況する。公私の存続に奔走する雑誌編集長速水の人生の歓びと喪失を同化体験。現実に戻れて心底ホッとする。罪の声同様、心理的駆け引きでの動作や言葉の機微が瑞々しく、没入感と後引き感は外れ無し。騙し絵、標題は予想もできない
サピエンス全史(上) ユヴァル・ノア・ハラリ
人間が動物と一線を画するのは虚構という存在を生み出し大量の人が共同作業をすることにある…多分そうなのだろう。国も組織も物語もそれらは実体がない。序盤で心を掴み、中盤は弄び、最後は統一に向かう世界を帝国のサイクルに重ねてくる。どうしようもなく納得してしまう
小説家の作り方 野崎まど
些細な設定から展開が連なり、膨大な選択肢のある空間に拡がった後、綺麗に折り畳まれる。作中にある通り「基準を作り、それを守り、時にそこから逸脱する」。読者の受け取り方を軸にして、プロットを練りに練る、そんな心遣いのある作家さんだなと感じる。推しである。
2018年5月の読了 別人の文章
2カ月以上前の読了記録たちを今の自分が見るととても新鮮ですw
他人が書いたように感じるのは、特にこの2カ月で何かが変わってるんでしょう
明るい文章のツイートも多く、自分を見てみて光線も強く、それが月末の昇格無しで人が変わったようになっています
…って、まぁ。。。心の奥では物事に冷めてたんですね。
会社員になると気がつけば出世が目標になる。その仕事はさして面白くないのに、なぜか目指す。そして先輩らは意外と短く儚く代替わり、数年で名前すら忘れられていく。夢って、どうあるのが一番後悔しないのかね。
— なだ (@marsaw_ocean) 2018年5月31日
今夜はこの読了ツイの時の気持ちに戻らないと。戻らないと。。。 https://t.co/CJmaR0lPtk
- かがみの孤城 辻村深月
- 「続ける」技術 石田淳
- おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子
- 青くて痛くて脆い 住野よる
- 神去なあなあ日常 三浦しをん
- ダヴィンチコード(上) ダン・ブラウン
- ダヴィンチコード(中) ダン・ブラウン
- ダヴィンチコード(下) ダン・ブラウン
- 月の満ち欠け 佐藤正午
- 上を向いてアルコール 小田嶋隆
- SHOE DOG PHIL KNIGHT
- BOOK BAR 大倉眞一郎・杏
- ルビンの壺が割れた 宿野かほる
- 東十条の女 小谷野敦
- ディアスと月の誓約 乾石智子
かがみの孤城 辻村深月
他者の本当の問題は簡単にわからない。不登校に留まらず、幾重もの目線で人の生きづらさを体感させられる。辻村作品にいつも感じる。彼らの繋がりと離れるのが本当に名残惜しい。彼らが仕組みに気付いてからのうねりと、幕が次々に開いていく様は誰しもの心に残るはず。
「続ける」技術 石田淳
要点はおそろしく短く、ブログの記事で終わるほど。目的を明確化しトリガーを配置しブロックを排除する。そしてサポーターを配置しておくこと。行動科学というより、動物心理をプログラムしておくかのよう。あえて私の言葉を補うと、大事なのは、感情が湧く隙間を与えないこと。
おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子
独居老女が歌うように東北弁のリズムを刻み、あらゆる意味を付けようと夢遊する。先行きが短い前提での話運びや厭世観。やはり忌避する気持ちと魅了とが混ざって心が落ち着かない。「日々を重ねて初めて手に入れる感情」とは味わい尽くしてみたいものよ。
青くて痛くて脆い 住野よる
会話の流れを分析する独り善がりは、その名詞で凍りつく。距離感を保つルールを曲げた果てに、互いに傷つけ叩き潰す暴力の応酬は圧巻すぎて、記憶に残りすぎる。自分の外に理由を探さず、もし見つけても暴力の目的を自問しないといけない。それが青くないということ。
神去なあなあ日常 三浦しをん
摩訶不思議な林業ワールド。文字通り、なあなあ日常としか言えない。読み終わって表紙を拡げて似顔絵ににっこりしてしまう。日記体で書かれたそれは、素朴で心の触感みたいなものが気持ちいい。村中のみんなで騒いでる賑やかさは理由もなく楽しいもの。
ダヴィンチコード(上) ダン・ブラウン
巻紙を手繰るように、するすると止まらない展開。海外ものはアイドリングが長いことが多いのに、これは重厚な歴史を要所に散りばめて、のっけから飽きさせない。ただ、何年後かに筋を覚えているかというと自信が無い。
ダヴィンチコード(中) ダン・ブラウン
読者に対しキリスト教世界をレクチャーする中巻。宗教融合の考え方と聖杯伝説の謎。聖書は王家の子孫の物語であるって…。なんだか現実がゲームみたいに見えてくる。ラングドンとソフィーが逃げ延びるとわかっていてもドキドキは止められない。
ダヴィンチコード(下) ダン・ブラウン
黒幕を推察することも忘れ、ずぶずぶとのめり込む。下巻の没頭具合は上中とは別格だった。荒俣氏の解説通り、ヨーロッパの陰の歴史を味わう。聖書という原点を純真無垢な状態から立ち返る。日本人こそ楽しめるのでは。現代の宝探しに興奮冷めやらない。
月の満ち欠け 佐藤正午
もしかしたら別の人間に生まれ変わること。それが死、なのかもしれない。月が満ちて欠けるように巡り合おうとする想いの話。私にはこの妄想みたいな現実は、無間地獄さながらで最後までずっとおそろしかった。執着するのは感情からなのか、格言と短歌に操られてはいないか
上を向いてアルコール 小田嶋隆
文化的な営為が薄れ度数計算を始めたら奈落の入口。ほろ酔いは伸ばせない。辞めるとは決意や忍耐ではなく、人工的な計画行動として、過去を組替え生活プランを意識的に一から再構築すること。何かを一生我慢するなんてありえない。脱却者として厚く共感する。
SHOE DOG PHIL KNIGHT
自伝は美化するもの。でもこれは性格悪さを自覚しての壮大な面白話になってる。追い込まれたasicsの下請販売店、後のNIKEが翔くまでの話。裁判でも交渉でもその過程には笑うまいと必死に耐えるナイト。自伝をこの形にする謙虚さこそ、かくありたし。
BOOK BAR 大倉眞一郎・杏
歴代BOOK BAR大賞が載っている。読みたい本を15冊仕入れることができた。永い言い訳/西川美和、マイナスゼロ/広瀬正、ぼくと1ルピーの神様(スラムドック原作)が特に読みたい。
ルビンの壺が割れた 宿野かほる
伏線?こういうのは伏線ではない。ましてや手品でもない。揮発性が高すぎて、読了後分刻みでどんどん中身を忘れていく。むしろそうしたいのか。それが私の本音だと思われる。
東十条の女 小谷野敦
開いたら何が出るかなと借りてきたら、著者の女性遍歴を綴った私小説を含む短編だった。「東十条の女」では、42歳独身著者が婚活で出会う女性とオフパコな日々を過ごす描写に頭がくらくら。無駄に官能的で、子供の横でとんでもないものを読んでいるスリル。
ディアスと月の誓約 乾石智子
これは欲望と知恵の物語。夜の写本師の世界との接点を追い求め久々の乾石世界。「赤金色の閃光が笑いと共にはじける。たちまち全身に星くずとなって広がる」みたいな描写はこの人しか書かない。時が巡る悠久さはこの作品からも感じられた。湯上りみたいな気持ち良さ
どうか気持ちに潤いを。