断酒してなにしてる?

39歳のクリスマスに断酒を誓いました。持て余した時間にこんなことしてるトゥルーマン・ショー

2018年10月の読了 大正と昭和

気が付けば大正と昭和の激動

生き方に魅せられた1ヶ月でした

長い人生と体感を味わえる…個人史と歴史が交わる多視点の良いところです

光炎の人(上) 木内昇

2017Bookbar大賞本。まだ電気が謎多き時代。男は生計ではなく只只電気に没頭する。根源を考えず狂おしい自我を育んで。仕事に純粋な興味を求めるもの、身を立てるもの、存在証明を目指すもの。目の前の大正が何千ページ続いても構わない。生き様がとにかく面白い。

 

 

光炎の人 上 (角川文庫)

光炎の人 上 (角川文庫)

 

 

光炎の人(下) 木内昇

あなたの最たる指標は何ですか? 各々の生き様が訴えかけてくる。電気に魅入られた原石が濁りつつも磨かれる道程。技術史に名が残らずとも、考察は時の流れに溶けようとも、自らを量る指標の答えはあったのだろうか。自分の生き様を振り返っている錯覚にさせてくれる。 

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光炎の人 下 (角川文庫)

光炎の人 下 (角川文庫)

 

 

記憶屋 織守きょうや

弁護士高原と使用人外村はシリーズ化して欲しいほど、身悶えしたくなる同居生活。貴重な高原編を含めて、共通の怪人記憶屋を追いかけるのだが「ゾッとする」語が頻出するし、持論は全部長台詞に乗せるし、後半は別人が書いてますか?と思うほど。続編に指が伸びるかどうか。


火焔の凶器 知念実希人

包装された漫画を早く読みたくてうずうずして家路を急いだ記憶がある。袋を破って読むのが勿体ない思いと、読み尽くしたい思いが混ざったまま、読了後は満足感に浸る。天久シリーズほど、あの日のドキドキを思い起こせるものは無い。脳内映像回りっぱなしでした。

火焔の凶器: 天久鷹央の事件カルテ (新潮文庫nex)

火焔の凶器: 天久鷹央の事件カルテ (新潮文庫nex)

 


博士の愛した数式 小川洋子

博士は短い記憶を補うために情報をメモにのせる。ただの文字ではなく想いまで乗っているように博士はメモで再生する。 自分はこう思っている、ということを誰もが自覚して自分を生きているようで、ぬくぬくとしたこの時間がこのままずっと続いても構わなかった。

ロードムービー 辻村深月

ルサンチマンで苦しくなった塊。背景が見えた瞬間にジュワッと溶けだして、その直後、胸に訪れる未来への予感。そんな4編。未来に進むのは今の感情を忘れることになるかもしれない。でも大丈夫なんだよ。思い出すことが幸せになるんだよ。羽毛に包まれるような読後感。

マイナス・ゼロ 広瀬正

時間旅行SFの名作と名高い本作。世相の解説が文字の大部分を占める、このからくりのための下拵え375頁。全体を通して、ラジオ工作というか、マイコンプログラミングというか、小説というより戦前論文にアイデアを書き下した感が拭えない。とにかくも「サブルーチン」


風神の手 道尾秀介

鮎の伝統漁の町の35年に渡る繋がり。バタフライエフェクト好き。コミカルに笑わせるのではなく、何度も自然な笑いが出る。読み終わるとすっきりと幸せな気分が心に留まる。感情をかもし出す叙情的な文章からは心地いい言葉の引力を感じさせる。初読み作家、これ良い。

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五色の虹 三浦英之

満州エリート養成機関『建国大学』。未来を抱く日中朝蒙露の5民族が辿った夢飛び散った後の個人史ルポ。貴重なる語り部達の生涯最後の声がある。過酷すぎるその半生の中でも確かにあった幸せがこの本で理解る。啓発本なんか絶対敵わない。これは生き方を綴った実在の作品だ。

 

10月の最後はとてもいい本で締めくくった。著者は朝日新聞の記者さん。この実録には、李香蘭や姜首相が御歳94歳とかで実際に出てきます。絶望の縁にある時に人を救うのは?それぞれの答えがあるよ。

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