断酒してなにしてる?

39歳のクリスマスに断酒を誓いました。持て余した時間にこんなことしてるトゥルーマン・ショー

2018年1月の読了 村上海賊が好きすぎる

罪の声 塩田武士

お菓子が買えなくなったあの年。かいじん21面相を知って、江戸川乱歩を手に取ったっけ。あの声の子供は実在すると改めて考えると現実と見境がなくなる。事件を見ずに今ある人に目を向ける作者の思い入れが優しい。途方も無い読み応えだった。久々に何日もどっぷり浸かれた。

アンマーとぼくら 有川浩

家族の成り立ちを沖縄の観光案内が導いていく。旅猫カフーと似てると思ったけど違う。有川キャラの『気遣い』に出会う度にじわっと目の裏が熱くなる。うるまの果報バンタや勝連城、残波の鯨波に思い出が乗り写る。いつか行きたい。きっとこの小説を思い出す。

火花 又吉直樹

持てる語彙力と思索、哲学のすべてを注ぎ込んだかのような迫力に圧倒される。「人を傷つける行為って一瞬は溜飲が下がる。でも本人は全く成長しない」ーー神谷の長台詞に心が貫かれたまま暫し呆然とした。叩きつけるような暴力に揺さぶられる感情的な読書体験だった。

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

 

村上海賊の娘 上巻 和田竜

時代解説と各勢力が静かな前半は時代物はやめようかと挫折しかける。ところが人物が移動し始めると個性がどんどん自分に浸透してくる。合戦で我を通した二人が、p432「おい義清、なんぞ下知せんかい」互いが認めあった瞬間に、全身が喜びに満たされた思いがした。

村上海賊の娘 下巻 和田竜

 この本を読んで本当によかった。蒼臭い中堅の時期を過ぎた頃の男なら『安寧か意気地か』に何度も胸貫かれ、自らの在り方に照らすはず。ここまでの執念を持っていたか?逃れがたい自らの性根は受け入れて、誰憚ることなく誠実に刺激、執念を求めて仕事しようと奮いたった。

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雀蜂 貴志祐介

貴志さんには珍しい短い中編。世にも奇妙な物語と同じ進行時間感覚でサバイバルを楽しめる。読み進めると色んな小説のデジャヴが感じられる。貴志さんが何を読んでるのか、おぼろげに想像しながらほくそ笑んでいた。ミザリーをやってみたかったんだろう。そういう楽しみ方もありか。

雀蜂 (角川ホラー文庫)

雀蜂 (角川ホラー文庫)

 

あとは野となれ大和撫子 宮内悠介

干上がったアラル海に難民孤児が集う架空の国アラルスタン。大統領暗殺、議員逃走、行政麻痺の中、後宮の女子達は代理政権の委任状をでっち上げる!ああ、なんて素敵な設定なんだ。シビアな問題を軽快に切り抜ける。小説かと思えば叙事詩。リズムの融合が秀逸。

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鶏小説集 坂木司

コンビニあげチキが結ぶ人達の迷いとかけて鶏肉ととく。その心は羽ばたき。読後に食べた「じゅわ」と同じ味深い短編集。あげチキつなぎの発想が面白い。中高生の短編と40後半父の短編で何度もタイムスリップ。思春期子供との同居ってほんの数年。何気ない一瞬に気遣いしたくなる

雪には雪のなりたい白さがある (創元推理文庫) 瀬那和章

幾つも著作を読み漁っても尚、目が引き寄せられる描写表現。そして、瀬那作品の根底にある「約束」の存在。それは呪縛にもなるし誇りにもなる。夢が叶わず何者にもなれなかったらどうする?かつて描いた夢、今ある現実、その連なりこそ本当に必要なもの

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫) 三浦しをん

初しをん。川の流れのような静かな文章が小気味好い。この境遇、依頼をぽんぽん考えついて幸福の再生に結びつけていく。まほろの世界観にハマりっぱなしな数日だった。不幸かもしれないけど生き方に満足してる人達を見てると、悩みなんて消し飛んでしまいそう。

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羊と鋼の森 (文春文庫) 宮下奈都

起伏に富むわけではないのに本を持つ手が離せない。残り頁これしかないの!?と惜しみながらの読了。理屈で分析したくない美しく善い話。どうすればうまくなる?という再三の疑問、純正律に調律するときの「絶対なし無駄なし余裕待ってられない」という覚悟には初心が奮起される。

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花散る頃の殺人 乃南アサ

音道貴子シリーズ第二弾。一年の間の些細な事件の数々。地味な処理のなかに人間臭さが溢れていて、次の長編を見据えた設定集みたいだった。お清めと称してしきりに晩酌に行き、大晦日の締めにお屠蘇で盛り上がる男文化の象徴がなんだか懐かしい匂いを感じさせる。

女刑事音道貴子 花散る頃の殺人 (新潮文庫)

女刑事音道貴子 花散る頃の殺人 (新潮文庫)

 

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫) 綾辻行人

30年先延ばした初体験が終わった。予想を外れさせる『柔軟な枠組』。ニックネームの妙を炸裂させるタイミング。手品のミスディレクションにやられた時の清々しさと高揚感を満喫した。丹念な作り込みにギュッとしたくなる。他作家の原点にあることが今更よくわかる。

くちなし 彩瀬まる

取り外す感情、寄生する愛情、昼夜分かつ家族、貪欲の果て、産卵する社会の営み…よくこんな捉え方で世界観を発想できる。今までの自分を失くし別の自分になることを経験したことがあるか。私はその解放感と喪失感に憶えがある。おぞましいシンクロに感じる酔いが気持ちいい